モチベーションとは

経営理論


モチベーションという言葉は、つい「やる気」「気合い」と同義で語られがちです。でも経営理論の世界では、モチベーションは“個人の気分”ではなく、「人が行動を選び、どれだけ強く、どれだけ続けるか」を生み出す仕組みとして扱います。つまり、モチベーションは“設計できる”し、“壊れる条件”もはっきりしています。

まず大前提として、成果はだいたい次の掛け算で決まります。
能力 × モチベーション × 環境(資源・ルール・上司・チーム・仕組み)
「やる気がない」のではなく、環境側がゼロに近い(権限がない、時間がない、評価が不透明、邪魔が多い)だけで成果が出ないケースも多い。モチベーションを語るときは、個人の内面だけでなく、仕事設計と制度設計を同時に見るのがコツです。

モチベーションの仕組みを、経営理論の言葉でシンプルに言うとこうなります。
①欲求・価値(何が大事か)→ ②目標(どこを目指すか)→ ③期待(やればできるか)→ ④行動(何をどれだけやるか)→ ⑤結果(成果・報酬・評価)→ ⑥意味づけ(納得・成長感・貢献感)→ ⑦次の意欲
同じ成果でも「自分の工夫で達成できた」と感じれば次も頑張れるし、「運が良かっただけ」「上司が評価しない」と感じれば次は萎えます。ポイントは“結果”より“解釈”です。

ここから、主要理論を順に整理します。

モチベーションとは何か
経営学では、モチベーションを3つの要素で捉えることが多いです。
・方向づけ(どの行動を選ぶか)
・強度(どれだけ力を入れるか)
・持続(どれだけ続けるか)
たとえば「残業して頑張っている」でも、方向がズレていれば成果は出ません。逆に、正しい方向に小さくても継続できれば、学習が進み成果が伸びます。だから管理者の役割は「頑張れ」よりも、方向・強度・持続が自然に起きる条件を整えることになります。

外発的動機づけ(Extrinsic motivation)
給与、賞与、昇進、評価、罰、締切、監視など、外部の報酬・制裁で動く動機です。外発的動機づけは悪者ではなく、短期の行動喚起やルール順守(安全、品質、コンプラ)には非常に強い。一方で注意点もあります。
・報酬が切れると行動が止まりやすい
・「監視されているからやる」に寄ると創造性が落ちやすい
・報酬が“コントロール”として感じられると、内発的動機づけを下げることがある
外発的動機づけを上手く使うコツは、「透明な基準」「納得感」「裁量とセット」「成長フィードバックと併用」です。報酬だけで回そうとすると、数値合わせ・部分最適・不正誘発のリスクが上がります。

内発的動機づけ(Intrinsic motivation)
仕事そのものが面白い、意味がある、上達が嬉しい、没頭できる、といった動機です。内発は学習・改善・創造・継続に強いので、知的労働や改善活動、顧客価値づくりでは決定的に重要になります。
内発を高めやすい条件としてよく使われるのが自己決定理論の発想で、特に次の3つが満たされると上がりやすいと言われます。
・自律性:やり方を選べる、任されている
・有能感:上達している、できる感覚がある
・関係性:信頼され、つながっている
逆に内発は壊れやすい面もあります。目的が不明、裁量がゼロ、評価が理不尽、管理が過剰、こうした状態では「やりたい気持ち」ほど早く折れます。

ニーズ理論(Needs theories)
「人は何を求めるのか」という中身(欲求)に注目する理論群です。代表的な示唆だけ押さえると、現場で使いやすくなります。
・マズロー:欲求には段階があり、土台(安全・所属)が崩れると高次のやりがいが効きにくい
・ERG:人は状況で揺れ動き、成長が詰まると関係性や安定に戻ることもある
・マクレランド:達成欲求・権力欲求・親和欲求には個人差が大きい(同じ施策が全員に刺さらない)
・ハーズバーグ(二要因):不満を減らす要因(給与・制度・上司対応など)と、満足を増やす要因(達成・承認・成長など)は別物
実務で効くのはここです。「待遇や制度の不満(衛生要因)を放置したまま、やりがいだけ語っても上がりにくい」。まず不満の穴を塞ぎ、その上で成長や承認の設計をする順番が大切です。

職務特性理論(Job Characteristics Model)
仕事の設計そのものが内発を生む、という強い考え方です。中核となる5特性は次の通り。
・技能多様性:いろいろなスキルを使う
・タスク完結性:仕事が最初から最後まで見える
・タスク重要性:誰かの役に立つ実感がある
・自律性:裁量がある
・フィードバック:結果がわかる
この理論が教えるのは、モチベーションは「性格」ではなく「仕事の形」で変わるという点です。仕事を細切れにしすぎると意味が消えます。顧客の声が現場に届かないと重要性が消えます。権限がないと自律性が消えます。改善の打ち手が、仕事設計の見直しに直結する理論です。

期待理論(Expectancy theory)
人は次の3つが揃ったときに頑張る、という理論です(掛け算なのでどれかがゼロだと動きません)。
・期待:頑張ればできそう(努力→成果)
・道具性:成果を出せば報われる(成果→報酬/評価)
・誘意性:その報酬が欲しい(報酬の魅力)
よくある失敗は、努力しても成果が出ない設計(資源不足・障害だらけ)、成果を出しても報われない設計(評価が不透明・えこひいき)、報酬が本人に刺さらない設計(価値観とズレる)です。対策はシンプルで、期待を上げるには育成と障害除去、道具性を上げるには評価制度の一貫性、誘意性を上げるには個別性(何が嬉しいかの理解)です。

ゴール理論(Goal-setting theory)
「具体的で難しい(ただし現実的)」目標はパフォーマンスを高めやすい、という有名な理論です。効く条件は、
・目標が具体的(何を、いつまでに、どの水準で)
・難易度が挑戦的(ただし達成可能性がある)
・本人のコミットメントがある(納得・参加・意味づけ)
・フィードバックがある(進捗が見える)
注意点も強力です。数値目標が強すぎると、近視眼(長期価値を捨てる)、不正、チームワーク低下が起きやすい。だから「品質・安全・顧客」などのガードレール指標や、プロセス目標(学習・改善)を併用すると安定します。複雑な仕事ほど、いきなり結果目標一本ではなく、学習目標や段階目標が効きます。

社会認知理論(Social Cognitive Theory)
中心概念は自己効力感(self-efficacy)です。「自分はできる」という感覚が、行動選択・努力・粘り強さを左右します。自己効力感を上げる代表ルートは4つ。
・達成経験:小さく成功する(最重要)
・代理経験:できる人のやり方を見る
・言語的説得:具体的な励ましやコーチング
・情動の調整:不安・疲労・ストレスのマネジメント
現場で自己効力感が下がる典型は「難しすぎる目標をいきなり置く」「失敗が責められる」「やり方が共有されない」です。逆に、最初の小さな勝ち筋(成功体験)を設計し、良い手本を見せ、改善のフィードバックを早く返すと強くなります。

プロソーサルモチベーション(Prosocial motivation)
「他者の役に立ちたい」「社会に貢献したい」という動機です。顧客対応、医療・福祉、教育、インフラ、BtoBの現場でも実は重要で、強く働くと粘りと品質が上がりやすい。
上がりやすい条件は「影響の可視化」です。自分の仕事が誰にどう効いたかが見えると燃料になります。一方で燃え尽きやすい側面もあります。義務感だけが強く、裁量がなく、感謝や成果が見えないと消耗します。だから、顧客の声の共有、感謝の循環、貢献が伝わるストーリー、そして“無理な善意”を防ぐ境界線(業務量・役割・優先順位)を用意するのが大事です。

最後に、理論を「使い方」に落とすと、管理者がやるべきことはだいたい5つに整理できます。

  1. まず不満の穴を塞ぐ(制度・待遇・理不尽・安全)
  2. 仕事の意味と顧客影響を見える化する(重要性・貢献)
  3. 裁量と責任のバランスを整える(自律性)
  4. 小さな成功体験を設計し、学習のフィードバックを早く返す(自己効力感)
  5. 目標は具体・挑戦・分割・ガードレール付きにする(ゴール理論+不正防止)

モチベーションは、精神論にすると運任せになります。理論で見ると、どこが詰まっているか(欲求・仕事設計・期待・評価・目標・自己効力感・貢献の可視化)が診断でき、打ち手が具体化します。組織のやる気を上げる最短ルートは、「人を変える」より「条件を整える」ことです。

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