1. 大量生産・大量販売時代に始まったブランド
この時代(おおむね1950~1980年代)は、モノが足りない時代から「どれだけ多く生産し、どれだけ多く売るか」が勝負の時代でした。企業は商品にロゴや名前を付けることで他社と差別化し、信頼や品質の証としてブランドを使いました。
- ブランドの役割:商品の識別、品質保証、信頼の象徴
- コミュニケーションの特徴:テレビCM、新聞広告など一方通行の大量広告でブランド認知を拡大
例:トヨタ、ナショナル、資生堂などが「このマークがある=安心」とされる時代。
2. ものづくりから価値づくりへ
1990年代以降、モノが飽和し、単に「いいモノを作る」だけでは売れなくなります。消費者のニーズは多様化し、「このブランドは自分の価値観に合うか」が重視されるようになります。つまり、「機能価値」から「情緒価値」「社会的価値」へと軸が移っていきました。
- ブランドの役割:共感、ストーリー、ライフスタイル提案
- コミュニケーションの特徴:双方向性を意識した広告、イベント、体験型プロモーションなど
例:アップルは「革新と創造性」、パタゴニアは「環境への配慮」で共感を呼ぶブランドに。
3. デジタル時代の価値創出とブランドのあり方
現代は、SNSや口コミ、レビューサイトなどを通じて、企業と消費者がリアルタイム・双方向でつながる「共創の時代」です。企業が伝えたいブランド価値よりも、「顧客がどう感じるか」がブランドそのものになる時代です。
- ブランドの役割:共創と体験の場、自分らしさを表現する“手段”
- コミュニケーションの特徴:SNS運用、インフルエンサー、ファンコミュニティ、エシカルな活動など、信頼を築く持続的な関係づくりがカギ
例:スターバックスは顧客とのつながりを重視し、顧客の体験がブランドそのものになっている。
まとめると、ブランドは「企業が一方的に作るもの」から「顧客との共創で進化するもの」へと変化しました。今後は「自分がそのブランドをどう体験し、他者とどう共有するか」がブランド価値の中心となっていきます。
【1. 大量生産・大量販売時代に始まったブランド】
(おおむね1950年代〜1980年代、日本では高度経済成長期)
●時代背景
戦後の復興と経済成長に伴い、家電・自動車・食品などの生活必需品の需要が急拡大しました。この時代は「作れば売れる」時代であり、企業はとにかく大量に生産し、大量に販売することで利益を追求しました。
同じような商品が市場に溢れ、どれが誰の製品か分からないような状況の中で、「これは自社の製品です」と示すためにロゴや商品名を明確に表示する「ブランド」という概念が重要になります。
●ブランドの初期機能
この時代のブランドは、主に以下の3つの機能を果たしていました:
- 識別機能(どこの会社の製品か分かる)
→ ナショナル(現パナソニック)のロゴ、日産やトヨタのエンブレムなどがこれに該当。 - 品質保証機能(このロゴがあれば安心)
→ 規格化された大量生産品は、品質の安定が重視され、ブランドがその保証役を果たしました。 - 記憶・想起機能(おなじみの名前で安心感)
→ 一度使って満足した商品は、次も同じブランドを選ぶという「ブランドロイヤルティ(忠誠)」が形成される。
●コミュニケーションの手法
この時代のコミュニケーションは、「マス・マーケティング」が中心です。
- テレビCM・新聞広告・ラジオ・チラシなど、企業から消費者に向けて一方的に情報を届ける手法が主流でした。
- 商品の特長や企業の姿勢を「広く、強く、繰り返し」伝えることで記憶に定着させました。
例:
「三種の神器」(白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫)の登場に伴い、各メーカーはテレビCMで自社製品の優位性をアピールし、ブランドの定着を図りました。
●ブランド戦略の典型的特徴
- 大量広告予算が強いブランドを生む時代
→ より多くの人に認知されることで安心感や信頼感が増し、さらに売れるという好循環が生まれました。 - 「企業=ブランド」の一体化
→ 商品ブランドよりも企業名が重視され、「日立の冷蔵庫」「東芝のテレビ」といった表現が使われる。 - 製品中心・機能訴求型
→ 「性能がいい」「長持ちする」「最新機能がある」など、スペックや機能の優位性を前面に出した広告が多かった。
●例:トヨタ、ナショナル、日立、資生堂など
- トヨタ:耐久性・信頼性を前面に出してブランド価値を確立
- ナショナル:家庭用電化製品で「松下電器=安心」のイメージを定着
- 資生堂:早くからパッケージ・広告ビジュアルにこだわり、視覚的なブランディングを確立
●まとめ
この時代のブランドは、以下のような特徴を持っていました:
- 目的は「覚えてもらうこと」「信頼されること」
- 手段は「大量広告による浸透」
- 消費者は「情報を受け取る側」
ブランドはまだ「企業の所有物」であり、消費者との関係性は「作る側」と「買う側」の一方向的なものでした。しかし、これが後に「共感・共創」へと大きく変わっていく序章でもあります。
【2. ものづくりから価値づくりへ】
(1990年代以降〜現在に至るまで)
●時代背景
1980年代後半〜1990年代、日本ではバブル崩壊後に経済の低成長時代に突入し、「作れば売れる」時代が終わりを迎えました。また、世界的にもモノがあふれ、「機能や価格」だけでは他社商品と差別化しにくくなりました。
この時代に求められたのは、「商品そのものの性能」ではなく、それを使うことによって得られる体験や意味でした。つまり、**「モノを売る」から「価値を届ける」**という発想への転換です。
●「ものづくり」から「価値づくり」への転換
■「製品中心」から「顧客中心」へ
- 製品の性能や価格より、「自分に合っているか」「気持ちが満たされるか」「自分の価値観に合うか」が選ばれる要因になります。
- 企業は単に“良い製品”を作るのではなく、“良い体験”や“共感”を提供する必要があります。
■ブランドの役割が進化
時代 | ブランドの役割 |
---|---|
大量生産時代 | 識別・品質保証 |
この時代 | 意味付け・共感・信頼 |
ブランドは「何を売っているか」よりも「何を信じているか」「何を社会にもたらしたいのか」という**“想い”や“物語”**を伝える手段になります。
●「価値づくり」の3つの軸
- 情緒価値(エモーショナルバリュー)
「そのブランドを持つことで、気持ちが満たされる」
例:スターバックス=リラックス、上質な時間 - 社会的価値(ソーシャルバリュー)
「そのブランドを選ぶことで、社会に良いことをしている」
例:パタゴニア=環境保護、エシカル消費 - 自己表現価値(アイデンティティ)
「このブランドは自分のスタイルや価値観に合っている」
例:アップル=クリエイティブ、自由な発想
●コミュニケーションの変化
この時代になると、企業と消費者の関係性はより密接で双方向的なものになります。
- ブランド広告だけでなく、体験イベント、店舗デザイン、社員の言葉づかい、SNSでの対応など、あらゆる接点(タッチポイント)がブランド体験になります。
- 消費者は情報を比較・発信する立場にもなり、「受け手」から「評価者」や「拡散者」へと役割が広がりました。
●成功事例(抜粋)
- 無印良品
「これ見よがしでなく、暮らしに馴染む」=消費者が自己の暮らし方を表現できるブランド - トヨタのLEXUS(レクサス)
単なる高級車ではなく、「上質な接客・空間・体験」を含めたトータルな価値提供 - 資生堂「TSUBAKI」
単なるシャンプーではなく、日本女性の美しさを肯定する情緒的なメッセージを発信
●まとめ
この時代におけるブランドとコミュニケーションの考え方の本質は次の通りです:
- 「何を作ったか」より「なぜ作ったのか」
- 「機能的価値」から「意味的価値」「共感価値」へ
- ブランドは“企業の一方的発信”から“顧客との信頼関係の積み重ね”へ
つまり、ブランドは製品ではなく「関係性」そのものとなっていきました。
ご希望があれば、3の「デジタル時代の価値創出とブランドのあり方」も続けて解説いたします。
【3. デジタル時代の価値創出とブランドのあり方】
(2010年代〜現在・そしてこれから)
●時代背景
スマートフォンとSNSの普及により、誰もが情報を「受け取るだけでなく、発信できる」時代が到来しました。情報はマス広告だけでなく、SNS、口コミ、レビュー、YouTube、ブログなど無数のルートで広がります。
この変化により、ブランドは企業が「つくるもの」ではなく、消費者が「感じ、共有するもの」へと変化しました。
●ブランドの本質が「共創型」に変化
従来の「ブランド=企業の一方的な表現」から、現代では「ブランド=企業と顧客の間で築かれる体験と関係性」となりました。
■キーワード:共創(Co-creation)
- 顧客がブランドを選ぶのではなく、顧客とブランドが共に物語をつくる
- ファンが自らブランドを拡散・守る(例:推し文化)
●現代のブランド価値の創出方法
① 顧客体験(CX)を中心に設計する
- 商品の購入前・購入時・使用中・使用後、すべてのフェーズにおいて「一貫したブランド体験」をつくる
- UX(ユーザー体験)+CS(顧客対応)+SNSでの対話=ブランドの印象を形成
② ストーリーテリングとパーパス(存在意義)
- 「このブランドは何のために存在しているのか?」という社会的な意味や使命がブランド価値の核に
- 単なる「モノを売る」から、「社会にどう貢献するか」が問われる
例:ナイキの「Black Lives Matter」支援、ユニクロのサステナブル素材採用
③ コミュニティ化
- ブランドに共感するユーザーが自然に集まり、ブランドを「育ててくれる」
- LINEオープンチャット、Instagramライブ、Discordコミュニティなどが活用される
●コミュニケーションの新しい特徴
従来 | デジタル時代 |
---|---|
一方通行(企業 → 消費者) | 双方向(企業 ↔ 消費者)・多方向(消費者 ↔ 消費者) |
マス広告中心 | SNS・動画・口コミ・インフルエンサー |
ブランドは企業が所有 | ブランドは“共感”によって社会で育つ |
●成功ブランド事例(抜粋)
■【スターバックス】
・SNSで顧客の投稿を引用・共有
・「第三の場所」という空間コンセプトを徹底
■【アップル】
・商品機能より「シンプル」「クリエイティブ」というブランドイメージがコア
・体験重視の店舗設計(Apple Store)、ファンが“自ら語る”ブランドに
■【サントリー「天然水」】
・単なる飲料水ではなく「日本の自然と水の未来を守るブランド」というストーリーを展開
・SNSでの自然保護活動や地域との関係性を発信
●注意点:透明性と一貫性が不可欠
- SNSで情報が即時拡散されるため、企業の言動や姿勢に**「嘘」や「ごまかし」があると一瞬で炎上**します。
- そのため、ブランドは「美しい言葉」ではなく「実際の行動」「社員の振る舞い」「企業文化」まで整合性が求められます。
●まとめ
デジタル時代におけるブランドは、次のように進化しています:
- 顧客は“購買者”ではなく“共創者”
- ブランドは“イメージ”ではなく“体験の総体”
- 情報発信ではなく“信頼形成”が鍵
これからのブランドは、「いい商品を売る会社」ではなく、「共感できる価値観を持ち、信頼できる行動をとる存在」であることが重要になります。
必要があれば、3つの時代をまとめた対比表や、貴社の業界に当てはめたブランド戦略への応用もご提案できます。
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